惚れた男のために、みすみす幸せを手放すなんて、いっぺん死んだほうがいいくらいのバカげた行ないなのかもしれない。
でも、あたしにはこうするしかないんだ。
向こうもたいへん残念がっていたみたいだけど“あたしが決めたことなら…”と渋々納得してくれたみたいだった。
あたしにはもう帰る道がなくなった―――
翌日、就業時間が終わると、あたしは渋谷祐二の製造ラインのほうへ走って行った。
でも彼のラインはまだ掃除を終えたばかりだったらしく、みんなモップやホウキなどの掃除道具の片付けをしていて、彼もまたモップを道具入れに持って行こうとしていた。
あたしが来ていることには全然気がついていないみたい。
「祐二くん」
星野さんが彼を呼び止めた。
「あたしのも持って行ってもらっていい?」
そう言って星野さんがモップを差し出すと…、
「いいですよ」
…と彼はモップを受け取り、自分のものと一緒に道具入れの中にしまった。


