あたしはベッドを出て、窓を開けた。
もうすぐ雨でも降るみたいで、湿り気の多い空気がシャワー上がりの肌にベタベタとまとわりついて気持ちが悪い。
「あ~、もう…」
テーブルの上のケータイを手に取り、着信履歴の渋谷祐二の番号を見つめながら思った…、
“やっぱりどうしても諦め切れないし、もし渋谷さんと結ばれないのが運命だとしたら、あたしはその運命に逆らってみせる!”
…って。
あたしは壁に掛けてある時計を見た。
7時54分。
“スイミングスクールは午後8時まで開いてるから、まだ間に合う”
そう思ったあたしは先日の件についてのお断りの電話を入れた。
居心地のいいスイミングスクールで正社員として将来の安定を得る道よりも、工場で派遣社員として不安な毎日を送る茨(いばら)の道を選んでしまったということだ。
せっかく正社員として雇ってくれるっていうのに、そんないい話を断ってしまうなんてバカ以外の何者でもないと思う。


