「あの……駐車場まで送ります」
背後から彼の声が聞こえた。
「いいよ。あたし、オトナだからちゃんと自分で帰れるよ」
「でも歩いて帰るとなると、駐車場までけっこー距離ありますよ…」
「あたしのことはもう放っといたほうがいいと思うよ」
「え…?」
「だって、あたしは渋谷さんにやさしくしてもらえるような女じゃないから。フッ」
背中を向けていたから彼からは100%見えなかったけど、そのとき、あたしは悪魔のような笑顔を浮かべていたと思う。
そう。あたしは悪魔のような女かもしれない。
“ちゃんと自分の気持ちを伝えないといけない”みたいなことをエラそうに言ったけど、彼が星野さんに“好きだ”とコクれば、確実にフラれることになる。
あたしは星野さんに結婚を目前に控えたカレシがいることを知っている。


