一番奥にある、桜の木の前にある遊郭に男は足を止める。 小見世も存在しない茶屋は敷居は高く、男は迷いなく足を踏み入れれば店番をしていた男が客の顔を見、禿(かむろ)を数人呼びつけた。 すぐにやって来た女郎付きの禿は、男の手を取って部屋へと案内してゆく。 「彼女は元気かい?」 「あい、やっと熱が引いて昼餉を食べて下さりました」 「そうか」 賑やかな長い廊下と、外廊下を渡りきれば途端に静けさがやってくる。