葵先輩は冷たい。




去って行く彼の後ろ姿を見ながら、あたしはただただ呆然と立ち尽くした。


何故……

彼はあたしにあんな話をしてくれたのか。


分からない。
だけど、それでいい。


心の中に溜め込んだ黒い塊が、少しだけ軽くなった。 その事実だけで、今は充分過ぎた。



「永瀬、葵… か。」


ちらり、渡されたルーズリーフに目をやる。

角ばった右上がりの綺麗な字で綴られた、あたしに向けての応援歌。



「あ……」


ポツリ、またポツリと雨が降り始める。

小降りだった雨も、次第に雨脚は強くなり。あたしの制服を濡らしていった。



ーー頬に伝う雫。
これもきっと雨の仕業に違いない。

ただ少し。塩辛かった。



「なんなのよ…」


嬉しい、とか。
きっとそれは勘違いで。

もしかしたら夢かもしれない。


でも、まあ…

夢なのならば、もうこのまま… 一生覚めなくていい。