*SIDE:葵



無事全曲歌い終えると、俺はすぐさま廊下へと飛び出した。

キョロキョロと周りを見渡す。
だけど、目的の人物は見当たらない。


……帰ったのか?


額に流れる汗を拭いながら、ふらふらと下駄箱の方へと近づいてみる。

だけどやっぱりいなかった。



「はぁ……」


まあ、俺が悪いのは分かっている。不安にさせていることだって、気付いていないわけじゃない。

ただ… どうしていいのか分からないんだ。


こんなに本気になったのは初めてで。ある意味俺にとっての初恋だから。どんな風に接すればいいのか、よく分からない。



「莉子……」


その場にへなへなとしゃがみ込む。すると突然、目の前に大きな影が出来て視界が暗くなった。


誰か、なんてものは大体予想はついていて。おまけに何を言われるのかも重々承知していた。



「莉子ちゃんなら帰ったけど。」

「………っ」

「不器用にもほどがあるでしょ。」

「…………」

「ほら、何も言い返せない。」


馬鹿にするようにくすくすと笑うそいつに、俺はゆっくりと顔を上げて、これでもかってくらいにを睨みつける。

だけど、そいつはそれさえも可笑しそうに笑ってみせた。