「葵は莉子ちゃんに聞いてもらいたいって思ってるはずだよ。」

「そんなはずは、」

「ない、って?」

「…はい。」


急に真剣な顔付きになった神谷先輩。

それに驚きながらも、あたしは首を縦に振ることしか出来なかった。


だって……

そんなの嘘に決まっている。


あたしが葵先輩に何かを望むことがあっても、葵先輩があたしに何かを望むことはない。強いて言うなら… 視界に入るな、とかだろう。


それくらい葵先輩とあたしの関係は哀しいものなんだ。彼女なのに。あたしは誰よりも彼に遠い。



「じゃあ、あたし… 帰りますから。」


これ以上何を話したって辛くなるだけ。

あたしはそっと目を伏せて神谷先輩を振り切るように会釈だけすると、そこから逃げるように学校の外へと飛び出した。



神谷先輩は知っているのだろうか。

知っていて… あんな残酷なことを言うのだろうか。


葵先輩が歌を聞いて欲しいのはあたしなんかじゃない。"君"という、葵先輩の想い人なのに。


一瞬でも微かな希望を胸に抱いたあたしは、なんて愚かなんだろう。


堪えていた涙が目尻から溢れ出す。
校門を出る頃には、あたしの頬はもうびしょびしょだった。