上履きをキュッキュッと鳴らしながら、とぼとぼと靴箱へと向かう。


音漏れしてくる葵先輩の歌声は、未だに"君"への愛を綴ったラブソングが紡ぎ出されていた。



「葵先輩のバカ…」


痛いよ。痛い、痛い、痛い。
どうしようもなく心臓が痛い。


苦しいよ。切ないよ。
きっと葵先輩には分からない。
いいや… 分かるはずない。



でもね、先輩ーー


離せないよ。

あたしはあなたを手放すことはできない。


どうして? …なんて聞かないで下さいね。そんなの、好きだからに決まってるじゃないですか。嫌いになれないからに、決まっているじゃないですか。



「莉子ちゃん!」


背後から大きな声で名前を呼ばれ、あたしは思わず振り返る。


相手が誰だかなんて、そんなのは分かりきったことで。だけど先輩だから邪険に扱うことは出来なくて。


今は放って置いて欲しいのに…



「莉子ちゃんってば。」

「………なんですか。」

「いいの?最後まで聞かなくて。」

「いいです。別に。」

「素直じゃないね、莉子ちゃんも。」



意地悪く笑う神谷先輩。

だけどその瞳は全てを見透かしているようで。なんだか悔しかった。