これ以上はあんまりにも辛過ぎて。あたしは神谷先輩の顔すら見ずに、後ろのドアから外に出た。
ひんやりとした空気があたしの頬を冷やす。密度が高かった音楽室と違って、廊下はあたし1人しかいなくて… 窓から吹き込む風に、あたしはそっと静かに瞼を閉じた。
「葵先輩…」
好きです。堪らなく好きです。
でも、あなたは違う。
あたしのことなんか大嫌い。
そう言えば…
先輩があたしの名前を呼んでくれたことがあっただろうか。
いつだって不機嫌そうに低い声でお前と呼び。あたしとはあまり目を合わしてもくれない。
「はぁ……」
思わず溜め息が漏れる。
自分の存在が、よく分からない。
あたしは… なんなの?
告白したのはあたし。
でも受け容れたのは先輩だ。
振るという選択肢だってあったのに。あなたはその場で即オッケーしてくれた。
身体目当てなら分かる。
でも、そうでもないじゃないか。
あたしはただの… 都合のいい女。