ああ……
やっぱり駄目だ。
どうしたって切なくなる。
葵先輩の歌声に観客たちのボルテージが上がる中、あたしはただ1人… 俯いて必死に涙を堪えていた。
ねえ、先輩ーー
あたしは先輩の口から1度も好きだなんて聞いたことないよ。なのに… それなのに、先輩は誰かに向けて愛を唄う。
歌詞の中の"君"に。
先輩が好きな、"君"に。
「あはは…」
どんだけ惨めなんだろう。
滑稽にも程がある。
あたしは本当に彼女ですか?
ただ…
あたしが思い込んでいるだけで。独りよがりで。想いつづけることに、僅かな希望さえ見えない。
「神谷先輩、」
「ん?」
「あたし… 帰りますね。」