先生とシンデレラ

「…へ…」

私がたった今言われた信じられない事を自分の中で反復してその言葉が指す意味を考えていると、先生は優しい瞳をしながらただ一言、羅々…?と呼んだ。

「…先生はただ“羅々の瞳が好き”って言っただけだけど。」

口元を上げながらそう言って。

「…っ!」

…そうだった。

ただ先生は私の瞳が好きと言ってくれただけ…。

なのに…。

何勘違いをしているんだろう…

私は特別鏡を見ていた訳ではないのに自分の顔の体温が上昇していくのがわかった。

私がパッと先生から顔を逸らすと先生は、面白いものを見ているような表情をして

「何考えてたの」

と言った。

「…な、何にも。」

苦し紛れの言い訳。

こんな事言ってるんだから、“言いたくないんだな”って引き下がってくれれば良いのに、先生はそんな優しい事してくれない。

かといって気づいてないわけじゃない。

そこまで先生は鈍くない。

…つまり。

私が触れられたくないのを知ってて触れてくる。

ただ単に。

知らないふりをしているだけだ。

「“何にも”?…ハハッ。何言ってるの、そんな赤い顔して。」

私が黙って俯いていると、先生は黙って席を立って、私に何の断りも無く近づいて来て。

先生は私の右隣に立って広い背中を前屈みにし、私の耳に持っていたプリントを一枚だけ申し訳程度に挟んで、今に私の耳にプリント越しにでも唇が当たってしまうような距離で、

「…エロい事でも考えてたの」

と言った。