「そろそろ、帰らないとね。明日も早いし。送ってあげるから用意しなさい。」

え?

もう?

こうやって先生と二人で話せるのは、今日が最後かもしれないのに?

先生のその言葉に、引き止める言葉を必至で探す。

何か。

立ち上がった先生の手をさっと掴んで。

「…っあの!」

「何。」

先生がゆっくりと振り返る。

「…写真、撮りませんか…、せっかく携帯もここにあるし…。」

その言葉に先生は眉を寄せて。

「…何で。やだよ。こんな姿、残す物じゃないでしょ。」

ここで食い下がったらダメだ。

「私は、撮りたいです!」

いつもの私じゃないような強気な口調に驚いたのだろう、先生は少し目を見開いて。

「…そんなに撮りたいなら羅々が一人で映りなさい。先生が撮ってあげるから。」

その言葉に、心が折れそうになりながらも。

必至で自分を奮い立たせる。

「…っ先生と、一緒が良いんです…」

私がそう言うと。

先生は極限まで眉を寄せて。

「〜…っ。分かったよ。分かったから、その顔やめなさい。」

顔?

私が小首をかしげると。

先生ははぁ、とため息をついて。

小さな声で、
「分からないなら良いよ…。」

その言葉に疑問を感じながらも、私は持っていたiPhoneに指を走らせてカメラを出した。

私が、あらぬ方向を向いている先生の袖をちょんちょん、と引っ張って。

こっちを向いた先生にシャッターを向けて、シャッターボタンを瞬時に押す。

「…ちょっと。」

画面の中の先生は相変わらず仏頂面で。

「二人で撮るんじゃなかったの。」

その言葉を聞こえないふりをして。

iPhoneを手に持った腕を斜め上にあげて。

カメラを構えて、シャッターを押そうとしたけど、画面に写っている先生があまりに不機嫌そうで。

私は腕を下ろして先生に向き直って。

「…先生、笑って?」

「…」

「先生?」

先生はその言葉に。

観念したように笑って。

「…しょうがないな。」

その笑顔を見て。

私は腕をもう一回上にあげた。