先生とシンデレラ

車の中に乗り込むと真衣さんは、
「羅々ちゃん、久しぶりね!」

「…はい」

「今日は蓮来ないの?」



「何か用事って言ってました」

「え?あの子昨日はそんな事言ってなかったわよ?」

…て事は。

「何の用事って言ってた?」

「さぁ。私には関係ないって言ってたので。」

窓の方を見ながら呟くと。

真衣さんはちらっと私の方を見て

「…そう。」
と言った。

私が何も話せず黙っていると。

「私が小さい頃ね」



「私、甘いもの大好きだったのよ。まぁ、今も好きだけど。っていうか、子供って皆そうよね。でもうちの親は、糖分が多いからってあんまりそういう物を買って来てくれなくて。」

真衣さんは、何が言いたいんだろう。

「…甘い物を食べられるのは、他の人からもらって来た時と誰かのお誕生日だけだったわ。でもね。」

赤信号で車が止まる。

真衣さんが、私を見る。

「…蓮はいつも自分の分を私にくれるの。」

「…」

「今は本当に甘い物が好きじゃないみたいだけど、その頃は蓮も好きだったのよ。私はそれを知ってたから、いいよ蓮が食べなよ、って言ったんだけど、蓮は、いらないって言ってるんだからはやく食べなよ、って。」

信号が青になった。

「本当は、自分も好きなくせに。

「…先生は、優しいから。」

真衣さんは、ふふ、と笑って。

「…そうね。蓮は昔から他人の事ばかり考えるから。自分が周りからどう思われようが、蓮には関係ないのよ。蓮にとって大事な人が、守る事が出来れば連はそれで良いのよ。」

やっと真衣さんの言いたい事がわかった。

いつだってそうだった。

“羅々”

先生は、

“今日はもう帰っていいよ”

いつも

“そんな羅々はいらないよ”

私の事をちゃんと考えてくれてた。

だけど。

瑠璃ちゃんと先生が抱き合ってたのは。

事実でしょう?