「好き、好き、大好き!」

「…暇なひとって、いいよね…」

「暇なんかじゃないもん!」

私の名前は、水浦 羅々
高1

さっきから可愛い顔をしている生徒から愛の言葉を受けているのは私の担任の加藤蓮。


「じゃあ、何でここにいるの」

先生の冷たい言葉にもその子は即答で返す。

「先生に、会いたかったから!!」

その子が、久々に先生に反応してもらって、嬉しがっていると先生は、一息ついて、

「ばかじゃないの」

出た。

「馬鹿なんかじゃないも―ん!」

「馬鹿な人が堂々と、私は馬鹿です、なんて言うわけないでしょ。」

…確かに。

「だからって、私は、違うんだからっ!一緒にしないでよね!」

「ふー…ん。この前、社会、63点だったひとがよく言うよ…」

「そ、それは、たまたまだもんっ!次は、頑張るんだからっ!」

「…この前も同じこと言ってたよね。自分で気づいてるわけ。」

その子は本当に覚えが無いようでチョコンと首をかしげながら

「ぜっんぜん、覚えてない…」

先生は、その子の方をチラッと見て、ながーい溜め息を落とした。

「馬鹿」

あ。

また出た。

本日二度目の先生の名言。

「な、何なんですか!!ま、また馬鹿って!!か、仮にも私、生徒なのに…」

涙声でそう訴えている。

先生は、いつもの澄ました顔で、その子の方なんか一度も見ずに言った。

「“仮にも”じゃなくて、お前は先生の立派な生徒です。」

“生徒”

当たり前。

あの子だって私だって先生に取ったらただの生徒。

その子が下を向き、黙っていると先生は

「…早く教室に行きなさい。授業、始まるよ。」

その子は、俯いていた顔を上げて言った。

「先生の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!!」

いつも、そう。

あの子はきっと本気で言ってるのに…先生はいつも気づかないフリをする。

それに、先生は、本気で気づいてないんじゃなくて、わざと、気づいてないフリをしてて。


私は、先生の方は見向きもせず、次の授業がある理科室へと、足をはこんだ。