由紀さんが先生を呼んでくる為に出ていって十分。

…遅いな。

ソワソワして待っていたが、待ちきれなくなって外を覗いてみると直ぐそこにあった角の向こうから声が聞こえた。

「…本当に綺麗な奥様ですね。羨ましいです。」

男の店員さんの声と

「ありがとうございます。本当に凄く、可愛いくて。」

先生の声。



思わず息を潜める。

「うわ、ノロケですか?!
でもあんだけ綺麗だと会社の同僚の方から凄く色々言われるんじゃないですか?」

「…はは…誰にも見せてませんから。」

「え?」

「だって、見せたら不安でしょう、あれだけ綺麗だから。他の男に乗り換えられたらどうするんです?」

…っ。

「独占欲ですか?」
店員さんは笑いながら。

「…あいつに独占欲出してたら身が持ちませんよ。モテすぎて困ります。」

急いで音が出ない様にしながらドアを閉める。

「…」








何も無かった様に椅子で5分ほど待っていると由紀さんが笑顔で
「羅々ちゃん、ちょっとおいでー。」
と手招きしたので外に出ると。

さっきの角から先生の、やっぱりやめませんか、と言う焦った声が聞こえる。

「いいですから!旦那さんも言っときますけど大分イケメンでお似合いですよ!」
その声に押されて出てきた先生の格好は。

「…え?」

さっきまでの黒のスーツとは打って変わって私のドレスと合わせた薄紫色のタキシードを着ていた。

先生は眉にシワを寄せながら私の前に立つ。

「何で?」
私が笑いながらそう言うと。

「…知らない。」

由紀さんはそんな私達を見て
「私が無理矢理着せたんだよ!せっかくだから二人の写真も撮ってそれ現象してあげるからね!」

「だから、由紀さん、良いってば…羅々さえ撮ってくれればそれで。俺を撮る必要なんて…」

先生の声なんか聞こえていないかの様に。

「羅々ちゃん、こっちー。」
私の腕を引っ張って行く。

先生の溜息が後ろで聞こえた。