伊織君は悪く無い。
普通に真面目に音楽の話をしているだけだから。
それなのに亜美があんな表情を浮かべるからザワザワするんだ。
和樹だって同じこと考えている。
同じことでざわついている。
「おーい。亜美、お前、そのキーボードのパート受けるつもりなのか?」
和樹が溜まらず亜美に声を掛ける。
「うん、いいでしょ?一回だけなんだし」
「練習……俺も同伴ならやってもいいけど」
亜美が和樹に走り寄る。
「なんで、和樹の同伴が必要なのよ」
「お前、デレデレしてるし」
そう言いながらキーボードの椅子を調節している伊織君の方をチラリと見る。
「デレデレなんかしてない」
イヤしているし……と突っ込みたくなった。
「伊織の天然のフェロモンにイカレル女の子多いんだよね」
健也君がボソリと言った。うーん。意図せずって事か。
こんな短時間で亜美を……
ファンの子が血の気が多くなるのも分かる気がする。
やっぱ……伊織君……カッコイイ。
「和樹君だっけ?お願いがあるんだけどな」
伊織君が手にしている物を和樹君に差し出す。
「何?」
「サンバホイッスル。盛り上がりでどうしても必要なんだ」
「お願い出来る?これ、買ったばかりだから」
「わかった。俺、やる」

