「いきなり呼び出したりしてごめんね。デートの邪魔したんじゃないのかな?」
伊織君が亜美と和樹に頭を下げた。
「ううん。退屈してたところだし」
「俺は別に退屈してなかったけど」
和樹は機嫌が悪い。
伊織君がいきなり亜美の手を取って
「綺麗な指してるね……爪も綺麗に手入れしてるし」
そう言われて亜美の頬がポッと赤くなった。
和樹が伊織君の言葉に頬を引き攣らせている。
私の頬も同じくらい引きつった。
「手、褒められたの初めてだよ。マニキュアしても誰も褒めてくれないし」
亜美が半分和樹に対しての嫌味を言った。
「こんな綺麗な爪しているのに無理な注文なんだけど、この曲の中にグリッサンドが三回も入るんだけど……」
「グリッサンドが三回?」
「うん、他のバンドがコピーしている時は省いている事が多いけど……自分がキーボードやってるとさ、どうしてもこの曲には省けなくてさ」
「ちょっと、こっちに来てくれる」
伊織君が亜美の手を取ったままキーボードに向かった。
「一応、耳コピして楽譜を書いたんだけど、引きで……分かるよね」
「うん、高音から低音にでしょ」
伊織君がニッコリ微笑んだ。

