スタジオに戻るとすでに練習が始まっていた。


私は入口近くの健也君のドラムの横に立ってみんなの演奏を聞く事にした。


相変わらず陸君が苦戦している。


幸広君も音楽の分からない私でもちゃんとギターが弾けていないのが分かる。


曲が終わって伊織君が幸広君のギターを取り上げてソロパートの所を弾いてみせた。


伊織君のギターは滑らかでかっこ良くて完璧だった。


幸広君のギターと雲泥の差がある。


「パソコン……諦めようかな」


陸君がそう呟いた。


「陸がパソコン諦めたんなら俺もアコースティック諦めないといけないじゃないか」


「いいだろ。伊織はたくさんギター持ってるだろ?僕は僕だけのパソコンが欲しかったんだよ」


「イヤ、アコースティックは持ってないんだ。親父の古いやつならあるんだけど」


「スゲーおもしれー。練習中にパソコンとアコースティクギターがこのスタジオ中飛び回ってるんだぜ。面白くねぇ?」


健也君が大笑いしながら私に話し掛けてきた。


「うん、そう言われれば面白いけど」


「ボーカル……二人にして、伊織君がギター弾けば?」


客席で真澄ちゃんと見学していた愛子がポツリと言った。


「キーボードが居なくなるだろ?」


伊織君が愛子に向かって指で×を作る。


「亜美……友達なんだけど、亜美はピアノで音大目指してるんだけど」


「音大?」


「うん」


「愛子ちゃん、その子に直ぐ連絡取れる?」


伊織君の表情が光出した。


「幸広と一緒ならどうにかこの歌、歌えるかも……」



陸君も立ち直りだした。