私は立ちあがって
「帰るね」
私はリビングのドアの脇に置いていたカバンと
破れたジーンズとチュニックを抱えて
玄関へと駆けだした。
「沙織ちゃん……ごめん。もう、こんな事しないから」
玄関の手前の廊下で伊織君に腕を掴まれた。
「絶対にこんな事しないから……また、来てくれる?」
見当違いの謝罪が……
私を苦しめたけど……
泣きそうな表情の伊織君を突き離せなかった。
「うん……。来るよ」
その言葉に腕の力を弱めて
「家まで送るよ」
首を振って断った。
「一人で大丈夫だから……」
「じゃぁ、無事に家に着いたらメールくれる?」
「うん」
伊織君はマンションの下まで降りて来て私を見送ってくれた。
自転車をこぎ出したと同時に涙がワッと溢れ出てきた。
私のファーストキスは甘くて……
とろけるようで……
眩暈がするほどで……
あまりにも残酷だった。
「沙織ちゃんはこんな対象じゃない」
やはり私は伊織君にとって小学六年生のままなんだ。
時間は止まってるんだ。
平行線のままで交わる事は無いんだ。

