「ごめん……沙織ちゃん……沙織ちゃんはこんな対象じゃないのに」
「俺……どうかしてる」
伊織君は半分逃げるように私から離れた。
まるで、悪い事をした子供のように背中を向けて
「ごめん……本当にごめん」
何度も謝って来た。
この言葉に私は……
傷付いた。
私は初めて伊織君の言葉に傷付いた。
あんなに触れあって
あんなに重なり合っていた唇が
空気に触れて空しさだけが残った。
背中を向けた伊織君は……誰よりも遠い存在に思えた。
伊織君はこの腕からすり抜けてしまった。
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