「ねぇ、沙織ちゃん。これに腰掛けてよ」
そう言って持ってきたのはキーボードの前に置かれていた黒くて丸い椅子だった。
「これに座ってよ。足、消毒してあげる」
私はまた、言われるまま椅子に座った。
伊織君はさっき薬局で買ってきた絆創膏や消毒液に脱脂綿にピンセットを袋から取り出した。
そして、ゆっくりと脱脂綿に消毒液を浸みこませて、
まだ少し血が出ている私の膝小僧にピンセットで拭き取る。
それを何度も丁寧に繰り返して、傷口に絆創膏を貼ってくれた。
今度は私が穿いているショートパンツの右側の裾を太もものギリギリまで捲り上げてきて
「ここは広範囲に擦り剥いているけど、傷は浅いから消毒だけでいいよね」
そう言ってまた、さっきと同じように消毒を繰り返してくれたが
場所が太ももの内側とあって、恥ずかしかった。
膝と違って柔らかくて敏感な場所。
「ねぇ、もう少し足開いて」
伊織君は平然として言う。
やはり恥ずかしくて私はギュッと目を閉じて、言われるまま足を開いた。
消毒液が浸された脱脂綿が冷たくて、徐々に足の付け根の方に上がって来る。
「沁みる?痛い?」
「うん……ちょっと痛い」
「折角白くて綺麗な肌なのに、こんな傷作っちゃダメだよ」
「帰りは俺が自転車を運転して送ってくよ」
「いいよ……帰りが遅くなるよ」
「じゃぁ、今夜も泊まってく?」
そう言われて目を開けると真顔の伊織君がジッと見つめて来た。

