パソコンから流れる曲。
聞いた事の無い曲だった。でも、とてもテンポのいい曲。
「これ……なんてタイトル?」
「Ding Dong(○だけのアイドル)ってタイトルだよ。かなり前のアルバムの中の曲。結構気に入っているんだ」
ふいに伊織君がガラスの器に入った枇杷を摘まんで私の口元に差し出した。
「食べて」
「え?」
「食べさせて上げる」
吸い込まれそうな瞳。
まるで……催眠術にかかったようだ。
視線を合わせたまま、綺麗に皮が剥かれた枇杷に噛り付いた。
かじった後に種が見えた。
かじり終えると伊織君の長い指がクルリと枇杷を回して綺麗な面を私の口元に当てる。
私はそのまま、もう一度噛り付いた。
「美味しい?」
「うん。美味しい」
枇杷は四口ほどで種だけになった。
今度は私が枇杷を摘まんで伊織君の口に当てる。
伊織君は何も言わずに枇杷に噛り付いた。
「本当。凄く美味しい」
私達はニ十個ほどの枇杷の実を交互に食べさせあいっこした。

