今から、自転車で伊織君の居るひみつ基地に行ったとしてもニ十分位だ。

一目だけ顔を見て引き返しても九時には戻って来れる。

階段を駆け下りてリビングに居たお母さんとお父さんに
「ちょっと、友達とこに行ってきていい?」

「えっ?今から?」

コーヒーを飲んで寛いでいるお母さんが聞いてきた。

「うん。直ぐ近くだし、自転車で行ってくる」

「夜道気を付けるのよ」

お母さんも後ろ手にあるキッチンのカウンターに目をやると枇杷の実がたくさん付いたままの枝が置いてあった。

「あの枇杷どうしたの?」

ソファに座っていたお母さんがカウンターの方を振り向いて
「あれね、お祖母ちゃんの家の庭に有る枇杷よ。一個ずつもぎ取るの面倒だったから枝ごとへし折って来たの」

「あれ……貰っていい」

「いいわよ。まだたくさん成ってたし」

私はその綺麗なオレンジ色の実がニ十個ほどついている枇杷の枝を手にして
玄関に向かい、表に置いてあった自転車の籠に枇杷の枝とカバンを入れて飛び乗った。