「おめでとう、お姉ちゃん」
頭上から声が降ってきた。
顔を上げると満面の笑みの、悠里さん。
え、え、なに?
「何。その顔……聖ちゃんと付き合ったんでしょ?」
まだ、付き合ってないなんて、言わないよね?
背筋がサァーッと冷えるのが分かる程の。
絶対零度の笑みでした。
「つ、付き合い、ました」
「おめでとう」
そう言って、ふわりと周りに花が飛んでそうな優しい笑顔。
表情のスキルが多いですね。
表情で1人くらい殺せそう。
「早く靴脱いで。ご飯食べよ」
「あぁ、うん。お父さんとお母さんは?」
「さっき電話あって、どじっ子な部下がいるから尻拭いするんだって。お父さんは上司の尻拭い」
「言い方!」
そうか。
今日は二人とも早目に帰ってくるって言ってたのに。
まぁいっか。
今度報告しよう。
「わーい!ハンバーグだぁ」
「お姉ちゃんって子ども舌だよね。私もだけど」
いただきますと、二人で手を合わせた。
悠里の作るハンバーグはとても美味しくて、いいお嫁さんになれるなぁって思った。
常に思ってるんだけどね。
「そうだ。デートどうだった?楽しかった?」
「うん!もうめちゃくちゃ緊張した!」
「でしょうね」
「映画も面白かったし、欲しい物買えたし。あ、でも一番嬉しかったのはほっぺたにちゅ」
あ。
「ん?んんん?えと、何。な に が 一番嬉しかったって?」
「あ、あぁ、えへへ。ごちそうさま!」
「ちょっと!」
早々とお皿を片付けて(食べ終わっててよかった!)部屋に閉じ籠る。
何で口滑らすのよ、私のばか!
ぼふっと音を発ててベッドに倒れ込む。
先程の熱がぶり返したようで、熱くなってきた。
……お風呂行こ。
悠里に先に入ると告げてから洗面所に立つ。
ほっぺた……。
無意識に手がほっぺに触れる。
握手された人ってこんな感じなのかな。
一生洗いたくない的な。
いや、まぁ、洗っちゃうんだけど。
一息吐いてから服を脱いだ。
明日から何が変わるとか無いだろうけど、きっといつも以上に楽しいんだろうなと思った。
そんなまだ寒い冬。

