お昼を済ました後は買い物に行くことになった。



「本屋寄ってもいい?」

「じゃあ俺CDの所にいますね」



小説コーナーの所でお目当ての本が見つかった。


やっと見つけた!


黒猫が表紙の、前からほしかった本。

今買わなくてもよかったのに、浮かれた私はレジに持って行こうと踵を反した、



―――ドンッ



「!?」



ら、本棚横から出てきた男の人にぶつかった。

しかも、本を落としてしまいました。ショック。

因みに私は男の人に支えられてセーフ。



「大丈夫ですか?」

「大丈夫ですっ、すみません!」


頭を下げると、「怪我がなくてよかった」と言って私が落とした本を拾ってくれた


紳士だ……。


年齢は私とそんな変わらないと思うが、行動が大人な感じ。



「角凹んじゃったね。待ってて、交換してくる」

「え?あ、良いです!」

「でも……」

「角が凹んだくらいで読めない訳じゃないし。えと、特別っぽい感じがして」



私よ、特別っぽい感じって何。

ダメだ。

自分でも何言ってるのか分かんなくなってきた。



「なら弁償する」

「いえ、ぶつかったのも本を落としたのも私なので。気持ちだけで嬉しいです」



と、言うと彼は顔をしかめた。



「気持ちだけで嬉しいんです。優しい人ですね」

「そんなことないよ。普通普通」

「貴方が悪い訳じゃないのに、弁償するなんて言いませんよ。普通」

「ぶつかったのは俺の不注意でもあるから。それに、逆の立場だったら川崎さんも弁償するって言うと思うよ、俺は」



え?あれ?



「何で、名前」

「あ!ヤバイな。ごめんなさい、ちょっと人待たせてるんだった」



彼は本当に申し訳なさそうに私に本を渡してくれた。

一本の飴と一緒に。



「こんな物しかなかったんだけど。一応お詫び。じゃあ、また」

「ありがとうございます。また、今度?」



返事をしたら爽やかな笑顔で去っていく。

一本の棒つきキャンディを鞄に入れ、今度こそレジに向かう。


誰だったんだろう。

知ってる人?


ま、いっか。

縁があったらまた会うだろうし。

私も人待たせてるし。


退屈しているであろう聖ちゃんの所に急ぐのだった。