「いってらっしゃーい」
悠里の間延びした声を聞いて駆け出した。
流石に全速力は無理!
映画館に行けば聖ちゃんがきょろきょろしていた。
立ち止まり、息を調える。
あと、髪も。
変じゃないよね。
隣のショーウィンドに映る自分を見て確認。
よし、平気だ。大丈夫。
「川崎さん?」
「きゃー!」
「え、え、川崎さん!?」
「あ、せ、じゃない柏木くん……!遅れてごめんなさい!」
いや、もう本当にごめんなさい。
土下座は無理なので頭を下げる。
気持ちでは土下座してるんだよ。
「や。俺も今来たとこなので、大丈夫です。時間もまだあるし。中、入りましょう?」
どうしよう……。
今日の聖ちゃん優しい。
いつも優しいけど。
あと、私服姿見るの初めて。
………かっこいい。
「川崎さん、大丈夫ですか?」
気分悪い?と聞いてきた聖ちゃんに首を振って否定する。
見とれました、なんて言えません。
「ありがと。行こっか」
「はい!」
中に入るとチケットを渡された。
私が見たかった映画。
「わぁ!私これ見たかったの!」
「よかったぁ。俺も見たかったんです。川崎さんと」
「っ、えと……あ。高かったんじゃないかな?お金」
「貰い物なんで気にしないで下さい」
「そうなの?じゃあ、楽しまさせていただきます」
映画のチケットくれるなんて優しい人がいるんだな。
心の中でありがとうと見知らぬ人に感謝した。

