『監督、その……父親が迎えに来ているらしいので』

『そうなのか。じゃ、少し挨拶でも』

『あ、いえ。急な用事が』

『そうか。仕方ない。柏木、ちゃんと病院に行くんだぞ』

『……はい』



迎えなんて嘘。

一人で帰りたかっただけ。

お金はあるし、汽車で帰ろうという考え。


仲間に頭を下げ反対方向に歩く。



『うわ、いっぱいだ』



駅に着くともう汽車があり、中は人でいっぱいだった。

痛い足を叱咤して乗り込むと、ドア側の座席に女子校生の姿。

その人と目があった。

交わった視線は一度はずされ、もう一度交わる。


誰かに似てる。


そんなことを思った時。



『足怪我してるの?』

『え』

『よかったら、どーぞ』



一度断るが、「怪我人は遠慮しないの」と手を握られ座らされる。



『ありがとう、ございます』

『どういたしまして』



ふわりと微笑んだ。

今までの泣きたかった気持ちとか、悔しかった感情が一気に吹き飛んだ。



只、その笑顔に恋をした。