知貴様は私の屋敷に逢瀬に来た。


私は知貴様が来たら追い返せと女官たちに言ったけど…


皆、大歓迎で、彼を私に取り次いだ。



「今宵の月もキレイに見えますよ…桜の君」


「!?」


『物の怪の姫』と呼ばれた私を『桜の君』と呼んだ。



御簾越しに見る知貴様のお姿。


月明かりよりも明るい燭台の炎が私に彼の端正な顔を見せつける。



濃緑色の直衣姿。


桜が散れば、訪れる新緑の季節を連想させた。



調度品と共に届けられた恋歌も見事だった。