でも、公達に衣の裾を掴まれて、腕の中に引き込まれた。



「貴方が物の怪の姫ですよね」


「・・・」


公達は私の噂を知っていた。


「俺は陰陽寮に身を置く藤原知貴と申します…」


藤原…その名前を訊くだけで…我が身には遠い存在の高嶺の方だと感じる。



「一夜の相手をお探しなら、今すぐ…立ち去って下さい!」


「クッ…気の強い方だ…」


喉奥で噛み殺した笑いを漏らし知貴様は私から躰を離した。



「…このような廃れた屋敷…貴方のような高貴な方が来る場所ではありません」



「闇に隠れて、この美しい満開の枝垂れ桜しか、俺の目には見えておりません。
一夜の相手…とは寂しいコトをおしゃる」



「・・・」



「日を改めて、伺います…」