恋花よ、咲け。





「…わり、便所。」


どう考えても トイレに行くトーンじゃなかったが
どうしても耐えられなかった。


南も大分ビビって
「…お、おぅ。」とか言ってた。


そうか、そうだよな。


確かに外見は悪くない。


更に 身長が低く 童顔なため
可愛い雰囲気がある。


声だって 透き通る優しさを持ち
確かに ぶわーっとモテない訳でもないだろう。


「……ちっ。 つまんねぇ。」


思わず口に出してしまった声を
あの甘ったるい声が そっと拾い上げた。


「何がつまらないのぉ?」


咲来は、茶髪の長い髪を巻き
しっかりとメイクをして
背は普通で スタイルはすごく良かった。


だが俺は嫌いだった。


「……別に。 独り言だから。」


その声色には
奈穂に向ける優しさや 温かみはなく
冷たく突き放すものだった。


それでもしつこく聞いてきた。


「……分かるんだょ、何がつまらないか。」


「君には ぜってぇ分かんねーから。」


目も合わせずに言う。


そして スタスタと
廊下の先を行こうとしたら
ばっと腕を捕まれた。


ゆっくり振り返り
「……まだなにか?」
と 冷たく睨み付けた。


すると咲来は得意気に
「平気よ、睨まれたって。
慣れっこなんだから。

…分かってるよ、叶わないことくらい。」


そう言って、腕を離した。


「……高木さんには
そんな目 見せないくせに。」