「分かんないから 聞いたのに。」
弘也は思った事をそのまま言った。
「あぁ、そうだよね。
理由はねぇ…弘也がカッコいいから。」
丁度その時 二人は体育館の前に来ていた。
弘也は黙り込んだ。
「…弘也ぁ?」
聞こえたからだ。
弘也が好きな女の声を
馴染みの友の声を
聞き間違えるわけ無いのだ。
「…弘也。」
弘也は、体育館のドアに手を掛けた。
「…居るんだね、愛しいって思える人。」
咲来が 静かに言った。
「…当たり前だろ。
俺だって人なんだよ。
思い通りにならない時だって
いくらでもある。」
また同じ事を繰り返してしまうのか…。
また 健吾を苦しめるのか…。
いや 違うか。
今は完全に あっちが有利だな…
「何の事かは 知らないけどさぁ
人気者の惚れた女の顔ぐらい
見てみたい。」
「…君には 関係ないことだから。
悪いけど 忘れて。」
この時の俺の顔は
酷かったんじゃないか…。
考えていたことが 酷かったから。
「…忘れちゃった。
今 何があったんだっけ?」
咲来が おどけて見せた。
「…さぁ。 俺も……忘れちゃったよ。」


