恋花よ、咲け。





「んで 小6の時の 県大会の決勝でさ
やっぱり弘也がずっと投げてたんだ。」


そこで今まで
「うんうん。」と聞いていた奈穂が
目を丸くした。


「え!! 県大会の決勝!?」


健吾は話していた口を
ピタリと止めて
「…あぁ うちのチーム
そこそこ強かったからね。」
と呟いた。


「へぇ 凄いね!!」


奈穂が目を輝かせて言ったのを
横目で見てから 健吾が続けた。


「うん。

それで 3対4でこっちが勝ってて
このまま弘也が投げてたら
確実に勝てるっていう9回裏。

相手が攻手でさ
こっちの守備も スタメンで揃えて
正に チーム全体が
優勝に大手を掛けていた時
監督は俺を出した。

…弘也はマウンドから降ろされたんだ。

俺は 勿論全力で
今まで思いを キャッチャーが構える
ミットにぶつけたんだ。

…そのとき見えた景色とか
声援とか プレッシャーとか
キャッチャーのサインとか
全てがしっくりとくる
そこはまるで 天国だった。

その試合は何とか持ちきり
県大会で優勝したんだ。」


健吾があまりにも勢い良く話すので
相槌を打つ事すら忘れ
ただただ まっすぐ前を見据え
重く 堅く 鋭く しっかりとした声で
坦々と話す健吾に
少しばかりの心地好さを感じ
流れる話に乗っていた。