「…俺 ここ?」


その男は 特に誰に言ったでもない
言葉をもらし 席についた。


私の斜め右前だった。


瑞月 弘也(みづき ひろや)。


奈穂の気になっている人だ。


もうすでにこの時点で
奈穂の心拍はMAXだというのに、
彼は奈穂の方へ
くるりと振り返った。


「ここって 健吾(けんご)?」


…確実に私に
向けられた言葉だった。


…ここって…。


彼は 奈穂の隣の席を指差した。


「…あぁ…。
ごめんなさい、分からないゃ…。」


…初めての会話としては
あまりに内容が薄かった。


「だよね、そりゃあ。
今日 初めてだしね。
ごめんね 急に聞いちゃって。」


…やっぱり 優しいんだぁ


「うん…。
あ 席近いしさ クラス同じでしょ…?
…私、高木 奈穂(たかき なほ)。
よろしくね。」


自分でも驚くことに
すごい勇気だと思う。

でも こんなチャンス
二度と無いでしょ…?


「あ 俺は 瑞月 弘也。
よろしくね。」


ひゃーーー!!


奇跡って あるもんだねぇ…