。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



「事情って何やねん」


頭から布団を被って、まるで何かから逃れるように身を潜めている響輔に問いかけた。


「………」


響輔は何も答えずに押し黙ったまま。


珍しい……落ち込んでんな。


俺はそれ以上何も言わずに、響輔の布団もちょっと持ち上げると自分も潜りこんだ。


小さい頃はこうやって良く二人で眠ったものだ。


眠る間際に色んなことを喋った。(って言っても喋ってるのは一方的に俺だったけど)


今思えば大した秘密でもなかったけど、布団の中で交わす内緒話は子供心にドキドキと楽しかった。


それこそ小さな悪戯をやらかしておかんを困らせたこととか、兄ちゃんたちに苛められて愚痴ってたこととか、恋の話や、思春期の悩み……


本当にあれこれ話した。


「どーしたん、響ちゃん」


向こう側を向いている響輔の背中にそっと問いかけると、響輔はゆっくりと体ごと振り返らせた。



ゴソッ


布団が動く衣擦れの音がやけに大きく響き、俺に向き直ると、すぐ傍で響輔が目を上げ俺の手にそっと手を置いた。


温かい



手のひらだった。






「戒さん………俺、今夜は帰りたない」






長い睫を伏せて、僅かに俯きながらそっと囁く響輔。





………響輔…



…………




……か






「帰れぇーーーー!!!」







ドカッ!


俺は響輔に蹴りを入れると、布団から追い出した。