「事情って何やねん」
頭から布団を被って、まるで何かから逃れるように身を潜めている響輔に問いかけた。
「………」
響輔は何も答えずに押し黙ったまま。
珍しい……落ち込んでんな。
俺はそれ以上何も言わずに、響輔の布団もちょっと持ち上げると自分も潜りこんだ。
小さい頃はこうやって良く二人で眠ったものだ。
眠る間際に色んなことを喋った。(って言っても喋ってるのは一方的に俺だったけど)
今思えば大した秘密でもなかったけど、布団の中で交わす内緒話は子供心にドキドキと楽しかった。
それこそ小さな悪戯をやらかしておかんを困らせたこととか、兄ちゃんたちに苛められて愚痴ってたこととか、恋の話や、思春期の悩み……
本当にあれこれ話した。
「どーしたん、響ちゃん」
向こう側を向いている響輔の背中にそっと問いかけると、響輔はゆっくりと体ごと振り返らせた。
ゴソッ
布団が動く衣擦れの音がやけに大きく響き、俺に向き直ると、すぐ傍で響輔が目を上げ俺の手にそっと手を置いた。
温かい
手のひらだった。
「戒さん………俺、今夜は帰りたない」
長い睫を伏せて、僅かに俯きながらそっと囁く響輔。
………響輔…
…………
……か
「帰れぇーーーー!!!」
ドカッ!
俺は響輔に蹴りを入れると、布団から追い出した。



