「待てって!」


こんな風に何も分からず帰すわけにはいかなかった。


ここまで来て、危険を顧みずに自分の正体さらすようなことして、収穫が何もなしじゃ意味がない。


俺は乱暴に彩芽さんの腕を取って、振り向かせた。


瞬間、ふわりと彩芽さんの雰囲気には似合わない、どこかエキゾチックで色っぽい香りが香ってきた。


彩芽さんはこのときはじめてはっきりと不快感を露にし、僅かに眉を寄せると、


ぐいっ!


俺が掴んでいた方の手首を素早く回し俺の腕を掴むと、上に捻り上げた。


女の細腕だし、見るからにおっとりと落ち着いていそうなこの女に―――ましてやこんな反撃に出られるとは思っていなかったのだ。


突然のことと油断していたってのもある。


俺は腕を捻り上げられて、声も上げられなかった。


この女―――こんな風に殺気を押し隠しておっとりとしているが、




―――結構強い。





ただ驚いて―――目の前の女を凝視する。


乱暴に振り切ることだって出来た。いくら少しばかり普通の女と違って強いとは言え、朔羅の拳には及ばない。


だけど俺はそれをしなかった。


この女の力量を、計ってみたかったのだ。





「女性に突然乱暴するのも良くないわね。お勉強して出直してきなさい。



ぼーや♪」




彩芽さんはうっすらと笑うと、それ以上何かをしてくるわけでもなくあっさりと俺から腕を離した。


あの香りが遠ざかっていく。





朔羅の愛用しているチェリーブロッサムとは、香りの質も重さも違う―――





脳内を刺激するような、痺れさせるような―――


不思議な香りが―――



遠ざかっていく。