「いつの間に」
「私の手からは逃げられない、キングスネーク。さぁどうでる?」
白へびは状況を楽しむかのように口の端に笑みを浮かべた。
「命は惜しいが死ぬことを恐れていたら殺し屋なんて務まらない。
それに私は追い詰められても、契約を破棄などしない。
それが私の主義だ。君も知っているだろう白へび。
手を引けと?答えは―――
Noだ」
スネークは余裕の顔で白へびを見て笑うと、白へびも笑った。
「交渉決裂かな。しかし君は追い詰められている。
龍崎 琢磨が動き出したからね」
「退路がなければ作るまでさ。それが私のやり方。
主義を曲げるつもりはない」
スネークの一瞬の動きを白へびは見逃さなかった。
スネークのブーツのつま先がチェス盤を蹴り上げ、チェス盤が引っくり返る。
黒と白のチェス駒がまるでスローモーションのように宙を舞い
その一瞬の隙をついてスネークがコートの上着の中に手を入れるのが分かった。
カチャッ
拳銃の乾いた音が夏の夜空に響き渡って、銃口が自分に向けられたことを白へびは知ったが
同時に彼も拳銃を取り出し、スネークの額に向けていた。
交差する腕の先には互いの銃。
それでも両者は顔色ひとつ変えることはなかった。
―――余裕の笑みすら浮かべながら
「腰が凝るから銃を持ち歩きたくないんじゃなかった?」と白へびが笑う。
「君こそ。まぁ、お互い歳ってことだな」
スネークが挑発するように笑って、それでも相手の力量を計るようにゆっくりと足をずらした。
白へびもそれを追いかけるようにゆっくりと移動し、拳銃を両手で構えなおした。
「私が追い詰められていると?
白へび、君はそう言いたいらしいが、そもそもゲームははじまったばかりさ」
「黄龍を甘くみるな、スネーク。
逆鱗に触れると痛い目を見るぞ?」
「失ったものを取り返そうとして何が悪い。君も私の同胞なら気持ちは分かる筈だけどね。
それとも龍に寝返ったのかい?」
「私は何者ともつるむ気はない。そもそも私は玄蛇と対になる蛇として生み出された存在。
私は玄武の人間だ」



