「いえ…ナンパされてたわけじゃありません。
てかタチバナのヤツ……シュウって名前なんですね」
あたしがお兄さんを見ると
「龍崎さん…知り合い?」と新垣 エリナが遠慮がちに聞いてきた。
「知り合いて程でも…」
!
突如閃いた。
この人!タチバナと知り合いっぽいし、随分親しげだったし、
あいつのこと色々探れるかも!
「タチバナ……さんとは、どういうお知り合いなんですか?」
手始めに聞いてみた。
「あー…ちょっとした…ね」とお兄さんは言葉を濁す。
「同じ仕事仲間なんですか?」
「…いや、仕事は違うよ。俺、中央商事に勤めてるんだ。
俺タチ…じゃなくて、キリガヤ ヒロって言います」
と、お兄さんあっさり手の内をバラして自己紹介。
あたしが不審者だったらどうするつもりだよ。
この人警戒心薄いな~…てかお人よし??
しかし“キリガヤ ヒロ”って…聞いたことない名前。とりあえず関係者じゃねぇな。
見るからにカタギそうだし。
と一人でブツブツ考えていると、
「あ、オオカミとヒツジ。可愛いですね」
と新垣 エリナがお兄さんの持ってるちっちゃな生成りのトートバッグにぶら下がっているオオカミとヒツジのぬいぐるみを指差した。
いい歳した大人がこうゆうのつけるのもどうかと思うけど、何故だかこのお兄さん違和感なし!だな。
すっげぇ似合ってるし。
「ホントだ、可愛い~」
「そう?これ…奥さん……につけられたんだ」
ああ、なるほど。
なんかお人よしそうだし?奥さんの尻に敷かれてそうだもんな。
「気に入ったらあげるよ」
お兄さんは持ち前のお人よしでオオカミとヒツジをバッグから取り外すと、
「はい」と言ってまたもにこにこ爽やかな笑顔であたしたちに手渡してくれる。
オオカミを新垣 エリナが、ヒツジをあたしがそれぞれ貰って、手の中でまじまじとそのヒツジを見ると
可愛いーーー!とテンションが一気に上がった。
って、あたしヒツジのぬいぐるみ貰って和んでる場合じゃねぇって。
「タチバナ…さん…何やってる人なんですか?」
さらに聞くと、
「アイツ??え?知らないの?」
とお兄さんは大きな目をぱちぱち。ちょっとだけ不審そうに顎を引かれて、
しまった!あたしとしたことがっ!
思わず慌てたが、お兄さんはまたも爽やかに笑顔を浮かべて
「あいつは
サクラだ………」
え―――……
サクラ―――………
お兄さんは言いかけたが、そのときちょうど電車が駅に到着して扉が開いた。
「ヤバっ!ここ降りる駅だった!」
お兄さんは慌てて立ち上がると、
「ごめん!またね」と慌てて走り去っていった。
“またね”とか。
また会える可能性の方が低いよ。
そう思ったケド
サクラ…
何でお兄さん…あたしの名前―――知ってるんだ…
しかもアイツがサクラ??って
謎過ぎるぜ。
結局あたしはタチバナの正体を掴むどころか
暗号めいたその言葉に
益々悩まされることになった。
(ヒツジはゲットできたけど)



