。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。




よろける足取りでトイレに向かうと、胃の中のものを吐き戻した。


と言っても昼以降あまり食ってねぇから吐瀉物はほとんどが水分だったが。


夕飯をろくに食ってねぇのにビールを飲んだからか?酔ったのだろうか。


いや…こんなこと割りとあることだし、そもそも缶ビール3本程度で酔っぱらったことなんて一度もない。


ギリギリと内臓を絞られるような痛みに俺は声にならない悲鳴を上げて、トイレの壁に手をついた。


あまりの激痛に壁に爪を立てて、ギリギリと爪あとが壁に残る。


ユズさんが心配そうに俺の背中を撫でさすり、


「…おい、お前大丈夫か…なんか悪いもんでも食ったか?


食あたりかな。薬でも…」




俺は無言で頭を振り、それに何も答えることができなかった。


胃液がせりあがってきて、何か喋ろうとすると



ゲホッゴホッ


盛大にむせて再びトイレに向かって胃液を吐きだすと、洋式の便器に赤黒い血が一滴ポタリと落ちる。


「は!?お、おめぇ大丈夫かよ!き、救急車!」


俺の背中を撫でさすっていたユズさんがびっくりしたようにおろおろ。


くっそ…これはマジで胃潰瘍かも…


ユズさんの叫び声を聞いて起こされたからだろうか、響輔が


「…どうされたんですか?」


と怪訝そうにトイレを覗き込んできて、俺は脂汗が吹き出る額を押さえて僅かに顔を上げた。


元々起きてたみてぇだ。メガネを掛けてるところを見るとレポートでもやってたんだろうか。


さすがの響輔も背を丸めて便器に向かっている俺の異常とも言える様子に息を呑み、メガネの奥で目を開いた。


「戒さん、大丈夫ですか!」


狭いトイレ内に響輔が入り込んできて、俺の背中を撫でさする。






なんだろう―――



響輔の手ってすっげぇ落ち着く……




さっき風呂場で喧嘩したときと同じ手だってのに、今は安心する。



「こいつ…なんかの病気か…?マジでやべぇんじゃねぇの?救急車呼ぼうぜ」


とユズさんがおろおろして口元に手をやり、俺は


頭を振って「No」の意思を伝えた。


こんな夜中に救急車とか。


また入院とかなったら、今度いつ出てこれるか分かったもんじゃねぇし。


新垣 エリナの件もあるし






何より、これ以上―――朔羅に心配掛けたくない。






苦しさで響輔の胸元…Tシャツを乱暴に掴むと、


「…呼ぶな。……救急車……朔羅…心配させるな……」


響輔だけに聞こえる小声で何とか意思を伝えると、


響輔は小さく頷いてちょっと眉を寄せて、無言で俺の頭を抱き寄せてきた。



「大丈夫です。慢性胃炎の可能性が高いです。


今日一晩様子を見て、明日も戻らないようであれば俺が病院に連れて行きます」




俺の頭や背中をひたすらに撫でさすりながらユズさんに説明すると、


「ま、まぁ現役医大生のお前が言うんなら…」と納得した。