白い世界で香ってくるのは、どこか懐かしくて優しい香り―――
チェリーブロッサム…
朔羅―――?
俺が目を開けると、目の前に居たのは朔羅ではなく新垣 エリナの姿だった。
新垣 エリナは年上だと思われる男に肩を抱かれて、心配そうに振り返っている。
新垣 エリナの口が僅かに開いて
「た・す・け・て」
声にならない声で俺に助けを求めている。
助けて、戒―――…!
朔羅の声と重なって、新垣 エリナの姿がいつの間にか朔羅の姿に変わっていた。
朔羅は泣きそうに瞳を揺らしながら男に肩を抱かれて、俺から遠ざかっていく。
どんどん遠く。
「朔羅――――!!!」
―――「…ネ!おいっ!メガネっ!!」
聞き慣れた声が聞こえ、俺は乱暴に揺さぶられて目を開いた。
「は……」
目を開いて、目の前の光景を凝視すると、心配したようなユズさんの顔が映った。
「…おめぇ、大丈夫かよ…魘されてたぜ」
そう言われて、俺は思わず何でユズさんがここに居るのか気になった。
ちょっときょろきょろと辺りに視線を彷徨わせると、俺たちが飲んだビールの空き缶やら、枝豆の残骸が転がっていて
ああ、そっか……俺たち、いつの間にか寝ちまったんだ…
と気付いた。
それと同時だった。
強烈な痛みが胃を刺激して、俺は思わず腹を押さえて腰を折った。
喉を焼くような熱い胃液がせりあがってきて思わず口元を押さえる。
「……ぅ」
思わず口を覆って俺は立ちあがった。
「おい…どうしたってんだよ…お前マジで大丈夫か…」
ユズさんが異常とも言える俺の行動に驚いて、後をついてくる。



