「―――…メガネー…ちょっといいか?」
ノックする音も聞こえず、言葉と共にいきなり襖が開いたから俺は慌てて起き上がると“夏フェア”のメモを隠した。
顔を出したのは、
ユズさんだった。
ユズさんは缶ビールとグラス…それから枝豆やスナック菓子が乗った盆を手に遠慮がちに顔を覗かせる。
だけど
「お前、今何隠したんだよ」
とすぐに怪訝そうな表情。
「いや…別に…何でもないです…」
俺は背中で朔羅のメモを握り締めると、
「エロ本か?お前はどんなのがお好みなんだ?♪」
とユズさんが興味深そうにわくわく。
エロ本て…あなたと一緒にしないでください、と声が出かかったけど、
ユズさんの愛読書はエロ本じゃなく“呪いの本”もしくは“黒魔術の本”だな。
俺も一体ユズさんに譲ってもらうかな。呪いの藁人形。
今だったら夜中の熱い神社でもわき目も振らず藁人形の体いっぱいに五寸釘を打ち付けられる。
相手は言うまでもなく響輔だがな。
と大真面目に考えてると、
「何でぃ、これお嬢の字じゃねぇか」
とユズさんがいつの間にか俺の後ろに回りこんでいて、あっさりメモを奪っていた。
「ぅわ!」
俺は慌ててユズさんからメモを奪い返すと、
「……いや、これは…違っ…」
慌てて説明するも、説明になってねぇし。
「そいやぁおめぇ今流行りのスイーツ男子ってヤツだったもんなぁ。
いいって、隠さなくても。てか、おめぇだったらお似合いだが、
タクのヤツも甘党だろ?アイツはマジでキモいけど」
と忌々しそうに顔を歪める。
ユズさんは心の底からタクさんのことが大嫌い。
呪いの藁人形に頼るぐらいだからな。
「お嬢に頼み込んだんだろ?こんなの作ってくれって。
お嬢も真面目だな~」
とユズさんは勝手に勘違いして笑う。
ま、まぁハズれてはないし、勘違いされて助かったは助かったが。
「ところで何しにきたんですか?」
普段、組のもんが俺の部屋を訪ねてくることはない。
何故ならみんな俺が男色家だと勘違いしてるから。俺に襲われるとでも思ってんのか?
まぁ襲う趣味もないから安心しろ、と思うがその一方で下手に近づかないで居てくれれば楽っちゃ楽なんだけどな。
だから今日みたいな不意打ちはマジでビビる。
「おめぇキョウスケと何があったんだ?
大丈夫か?」
とユズさんは警戒心も薄そうに笑って、ビールの缶を持ち上げる。
どうやらこの人はこの人なりに、心配してくれているようだ。



