キリさんは鴇田のあとを追って出入り口に向かおうとして、ちょっと振り返った。




「朔羅さん、翔が言った言葉は―――


本当ですよ。



でも信じることは




疑うことよりも



難しいのかもしれませんね」




キリさんが色っぽく口角を上げて意味深に笑う。口元にあるほくろが絶妙な位置で


あたしの心臓がドキリと跳ねた。


「それじゃ、失礼しますね」


ちょっと頭を下げて今度こそ出て行こうとしているキリさんに向かって、


「あの!」


あたしは声を掛けていた。


出入り口を向いていたキリさんが振り返り、あたしは


「キリさんて……お兄さんとか…居たりします?」


思わず聞いていた。






夢で見た女の子―――ほくろの位置とか、雰囲気とか……


キリさんに似ていた。





キリさんは不思議そうに首を傾けて


「兄―――…ですか?」と呟いて、またも意味深そうに口角を僅かに吊り上げる。


ドキリ


またも心臓が鳴り、キリさんの色っぽい唇が動いたとき、


「キリ、何をしている。早くしろ」


鴇田が入り口でまたもキリさんを呼んで、キリさんは結局答えを飲み込んで


「まったく…短気なんだから。それじゃ、朔羅さん。失礼します」


とにこやかに笑って今度こそ



立ち去っていった。




あたしはその後ろ姿をじっと見つめ―――


その姿を夢の中で見た白い雪景色を歩くあの幼い女の子の背中に





重ねた。