「お嬢。キリが居る前でなんてことをおっしゃるんですか…」
と、さすがの鴇田も表情を歪めて聞いてくる。
「お前の心理を参考にしてみるつもりだ。参考になんないかもだけど」
「参考にならないですわよ。この人浮気するバイタリティーがあるのなら仕事してますから」
とキリさんが代わりに、にこにこ教えてくれる。
「この人、女を追い掛け回すより、数字を計算していた方が楽なんです。
複雑な乙女心を計算するより、お金の計算をする方が性分にあってるみたい♪」
…ああ。納得。
と言う白い目で鴇田を見ると
「随分失礼な言われようだな」と、鴇田は全然気にしていないように平然とコーヒーに口を付ける。
キリさんのこの態度に慣れていそうだ。
あいつは―――…戒は、女も大好きだが金も大好きだよな。
よくよく考えてみれば、危険過ぎる男だぜ。
「しかし私にはどうも浮気の類いには思えませんがね。
何か弱みを握られているとか」
う゛!
陰険蛇田め。鋭いな。
戒が新垣 エリナに正体バレたかも…ってことまでは言ってない。
てかさすがに言えない。そんなこと報告したらマッハで叔父貴に伝わるに違いねぇからな。
そうなったら雷どころじゃ済まねぇだろうしな。
「お前はどうして戒が浮気してないって思うんだよ」
同じオトコだからか??珍しく戒のこと庇いやがって。
ちょっとジリジリした思いで鴇田を睨むと、
鴇田はあたしの睨みにも動じず涼しい顔でタバコを口に含む。
「何故かって?極道の男だからですよ」
鴇田の答えはいたってシンプル。
口からも鼻からも煙を出しながら、「ふん」と感じで言い切った。



