雑誌をラックに戻そうとしてあたしの手が思わず滑った。
バサバサッ
派手に音がして
ぅわ!やっちまった。と慌てて雑誌を拾おうとするも
「…あら?朔羅さん?」
棚の向こう側からひょっこり顔を出したキリさんに
見つかってしまった。
「お嬢…?」さすがの鴇田もびっくりしたように目を開いてしばたたかせている。
「お、お邪魔しました!」慌てて回れ右をしようとしたけれど、
「待って」
キリさんにぐいと腕を掴まれて、あたしの足は止まった。
思わず振り返ると、キリさんは眉間に皺を寄せて、
「目が赤い。どうしたんですか?
泣いていらっしゃったんですか――――?」
そう聞かれて、あたしは戸惑いながらもまばたきをしてキリさんを見た。
その隣ではあたしと同じように戸惑ったように唇を引き結ぶ鴇田の姿。
答えるつもりはなかったのに
「学校やおうちで苛められました?友達と喧嘩?」
キリさんはいつもの色っぽい視線と口調ではなく、ほんの僅かに眉を下げると優しくあたしの頭を撫でてきた。
その手付きが―――
母さんのぬくもりを思い出させた。
『どうしたの?朔羅―――』
あたしが泣いてると、いつも優しくそう聞いてくれた母さん。
どうしてだろう…
キリさんは母さんに全然似てなくて―――
鈴音姐さんのときもそうだった。
―――大人の女の人って誰でもこんなぬくもりに溢れていて優しいのだろうか。



