「重要な会議でもあるんじゃないか?いいじゃねぇか、お陰で俺たちはゆっくりできる」
「このところ立て込んでてデートもままならなかったしね。
あなたと明るい時間に外で腕を組めるなんて
夢みたいだわ」
キリさんは色っぽく…だけど嫌味を滲ませて薄く笑ったけれど、鴇田の方は顔の筋肉一つ動かさずに無表情。
まったく動じないその飄々とした姿もいつも通り。
あたしはその様子を棚の向こう側でドキドキしてそっと窺っていた。
鴇田…あいつ―――冷たいのはあたしたちにだけじゃないんだな。
てか妻…ってかまだ結婚してないから恋人か…ぐらいもっと優しくしてやれよ。
でもキリさんはそんな鴇田に慣れてるのか気にした様子はなさそうだった。
「翔。あなたはおかしいと思わないの?
秘書的な役割な私たちを揃って会長は外へ追い出したのよ」
叔父貴が―――…?二人を遠ざけてる?
キリさんなら分かるかもだけど、側近である鴇田まで?
「気にするところか?あの人だって聞かれたくない話の一つや二つあるだろう」
鴇田の方はこっちが拍子抜けするほどあっさり。
キリさんもそれに納得がいってないのか眉をしかめている。
「気になるわよ。何を考えてるかあなたは知りたくないわけ?」
「別に。会長ご自身のお考えに俺は何も言うことはない。
そもそも会長は絶対に俺を裏切りはしない。だから気にならない。
俺は会長のことを信じている」
信じてる―――……
そう言い切った鴇田は、あたしがはじめて見るどんな鴇田よりもかっこよく見えた。
それは27年間と言う積み重ねた歳月のお陰か。
あたしと戒の歴史に、その時間は圧倒的に少ないけれど、でも
疑ってばかりじゃ何もはじまらない。
絶対的な信頼関係を―――
あたしはいつの間にかどこかに大切な何かを置き忘れてしまったに違いないのだ。



