「あ、ありがとう…」


新垣 エリナが振り返り、そのふしに背の高い戒の肩先に新垣 エリナの顔がわずかにぶつかった。


「ご、ごめんなさい!あたしのグロスが龍崎くんのシャツに!」


新垣 エリナが慌しく戒の肩先に触れる。


新垣 エリナの言った通り、確かにさっきロッカールームで塗っていたグロスが白いシャツにくっきりうつっていた。


さっきの鮮やかなピンク色のグロス―――


新垣 エリナの唇の乗っていたツヤツヤのグロスが、戒の真っ白のシャツに移って


何だか凄くイヤな気分になった。


新垣 エリナはそのつもりじゃないだろうけど、


戒の気持ち―――


―――…真っ白な心を染められたような―――


考え過ぎだろうと思うけど。


「龍崎さん!ごめん!ちょっとここ頼んでいい?」


何をするのだろうか、そんなこと予想できずにあたしは思わず条件反射でこくこく頷いた。


新垣 エリナは戒の腕を取ると、


「早く着替えないと染みになっちゃうかも。換えのシャツある?」


と店の奥を目配せ。


新垣 エリナに他意はないだろうけど、戒とロッカールームに行くつもりだ。


この時間はスタッフの誰も休憩時間じゃない。




ロッカールームで二人きり…





その事実があたしを不安にさせる。


ぎゅっと制服のスカートを握っていると、




「それ、Diorの新作の限定グロスだよね。水添ポリイソブテンやオクチルドデカノールは割合的に少ない。


よって落ちない事はないから安心したまえ。


それに秋シーズン限定のその赤みの強いピンク色、女子高生の君には似合わないよ。ママのを借りたのかな?



ヒールも、サイズが合ってない。ぐらつくのは履き慣れない証拠だ。


無理な背伸びは良くないな」



聞きなれない暗号のような言葉の羅列にあたしは目をぱちぱち。


あたしだけじゃない、ここにいるロイヤル一行の誰もが驚いたように目を丸め、




その言葉を発した当の本人、



―――タイガは



だた一人冷静に新垣 エリナを見上げていて、新垣 エリナは目だけを広げて言葉を呑み込んだ。