「……あたし、龍崎くんは龍崎さんと付き合ってるって知ってる。
だけどこの気持ちだけは止めることができなくて…
想ってるだけならいい?」
そう聞かれてあたしは目を開いた。
別に…
気持ちまで制限できないし、てか誰もしていいわけない。
誰が誰を好きだろうとそれは個人の自由だし―――…
そう思っていても、心の中がもやもやとくすぶっていた。
鉛をつめたように重い。
「……う、うん…」
だけどあたしはぎこちなくそう答えるのが精一杯。
「ありがとう」
新垣 エリナはあたしの手を両手で握ってきてにっこり微笑む。
その唇に浮かんだピンク色のグロスが
やけに色っぽくてドキリと心臓が鳴った。
イヤな予感がする。
直感でそう思ったけど、
でもどうすることもできない。
――――
「いらっしゃいませ~」
新垣 エリナは良く働く。頭が良いからあたしが一週間経ってやっと覚えたこともたった一日でこなした。
ふわふわ笑顔の柔らかい接客も客にウケがよく、従業員も。
「今度入った新垣さん?可愛くね?」
「ヤバいね♪ケー番教えてくんねぇかな」
とひそひそ噂話をしている。
「あの脚、超うまそう♪」
と声が聞こえてきて、ちらりと見るとすらりと長い白い脚がミニスカートから覗いていて、
華奢なヒールのパンプスが目についた。
あたし……
あんなきれいな色のグロスなんてもってねぇし、一個だけ持ってるけど(リコとお買い物に行ったとき買った)普段つけないし。
あんな大人の女の人が履くような華奢なピンヒールのパンプスなんてぜってぇ無理だしな。
てかあたしには似合わないよな。
戒は―――てか戒も…
やっぱりああゆう女の子っぽい子が好きなんだろうか。
はぁ。あたしももっとオシャレするべきか…



