飲みかけのココアを持ってまたも手を引かれると、今度はあたしのお部屋に。
「俺が一晩ついててやるから。もう大丈夫や」
戒がにっこり笑ってマクラ(あざらしのぬいぐるみ)を手にすると
「あたしもついてるわよ?安心して朔羅ちゃん♪」と腹話術までしてくれた。
「てか“あたし”ってこいつ女の子なの?」
「さぁ知らん。でもリボンついてんし。女じゃね?」といつも通りの戒。
そのいつも通りのやり取りに安心してあたしはほっと頬を緩めてベッドに横たわった。
戒は床に腰を降ろしたままその場であぐらを搔く。
「一晩ついててやる、ってお前どうするつもり?そこで寝るんかよ」
思わず聞くと、
「俺がすぐ横に居たら違った意味で怖ぇえだろ?」
戒は冗談っぽく笑った。
それは戒の優しさだと気付いた。こんなときまで気遣ってくれる―――優しい戒。
「…腰…痛くなるよ。隣にこいよ」
あたしは戒の手首を掴んで、自分も壁際まで体をずらした。
戒は最初戸惑ったものの、ちょっと考えたのち
「…んじゃ、お邪魔…」
と言ってベッドにあがってきた。
すぐ近くに戒がごそごそ横たわってきて戒の体温をすぐ近くに感じた。
狭いベッドでは二人寝るのが精一杯。
背の高い戒はちょっとだけ足をベッドの端から出して、そわそわと指先を動かしていた。
思わぬ距離にあたしもそわそわ。
「…明かり…明るくてもおめぇ寝れる?」と遠慮がちに聞いた。
普段はあたしも暗くして寝るほうだけど、いくら戒がついてくれていようと怖かったから。
「心配するな。俺はどこだって寝れる。パチンコ屋でも寝てたぐれぇだからな」
「てかパチンコって。あそこは十八歳以上だろ。
おっさんみたいなことしてんなよ」
つくづく思う。可愛い顔に似合わず中身男らしい…って言うか、それ通り越しておっさんだな。
「待ち合わせんときの暇つぶしだ」戒は笑って、
「確変(確率変動:大当り確率が変動して当たりやすくなる機能)のときに響輔のヤツ現れやがって。三万程儲けてたのに、無理やり連れていかれた。
アイツって何であんなにいつも狙ったように現れるんだろうな」
「知るかよ。てか三万って結構儲かったな」
「だろ~?今度ごちそう食わせてやる♪どっかいいとこ行こうぜ♪」
戒はご機嫌に言ってきたけれど、
「汚れた金でデート代出すなよ」と白い目で見ると戒は視線を泳がせた。
嘘だよ。
まぁデート資金がパチンコ代からってのはちょっとどうかと思うけど、
いつもあたしのことを考えてくれる戒が
好き。
今だってあたしが怖くならないよう、全然関係ない話してくれたし―――
あたしにはすぐ隣に戒がいてくれる。
震えるあたしをあっためてくれるように温かい手であたしを包んでくれる。
でも夢で見たあの子は――――………?
あの子は
ずっと待ってる。お兄さんの助けを―――どこかで



