―――…
『―――……助けて…』
どこからかか細い幼子の声が聞こえてきて、あたしはうっすらと目を開いた。
目の前は迫るような真っ黒の暗闇だけが支配していた。
『……助けて…』
またも小さな声が聞こえて、目をきょろきょろとさせ、あたりを見渡した。
視界がこの暗闇に慣れることはなかった。押しつぶされそうな闇が広がった景色にあたし自身怖かった。
でも見知らぬ誰かはあたしに助けを求めている。
聞いたことのない女の子の声。
『……助けて…お兄ちゃん…』
お兄ちゃん―――…?
またも聞こえて、それが頭上からの声だと分かって恐る恐る顔を上げる。
視覚はまったく頼りにならないが、聴覚はこの暗闇の中妙に研ぎ澄まされていた。
顔を上げてあたしは目を開いた。
黒い闇の中、そこだけはっきりと分かったんだ。
ガラスのような壁の向こう側に小さな女の子が、ふわふわと髪を漂わせて固く目を閉じていた。
女の子は小さな手をこちらに向けてガラスの壁を押し出そうとしている。
目を閉じてるからはっきり分からないが、かなり可愛い女の子。手や顔が白くて、髪は人工毛のようにツヤツヤしていた。
まるで人形みたいだ。
こないだ見た口元にほくろのある女の子じゃない。
『…あたしはここに居る…ここは冷たくて寂しい場所―――
あたしは
殺された』
女の子の口は動いていなかった。その声は直接あたしの頭の中に響いてくる。
―――殺された!?
『た・す・け・て』
かッ!
女の子が突如大きな目をぱっと見開き、
あたしを包む闇のような二つの黒い瞳があたしを捉えた。
「―――っ!!!!!」
ガバッ!
あたしは思わず飛び起きて声にならない叫び声をあげた。



