ドッ!
鈍い音がした。
龍崎くんに椅子が振り下ろされるより早く、龍崎くんが後ろに振り上げた拳が男子の顔面に命中したのだ。
その手にはペンが握られている。
ガタっン!ドサッ!!
椅子が落ちる音と一人の男子生徒が崩れ落ちる音が一緒に響いて、龍崎くんが不思議そうに振り返った。
「あれ、あんた誰?」
と倒れた男子生徒に向かってのんびり問いかけるも、
すぐにもう一人の男子生徒が龍崎くんに向かって椅子を振り上げた。
「龍崎っ!!よくも俺のミスズを奪ってくれたな!!」
「ミスズって誰だよ」
龍崎くんは余裕の笑みを浮かべてポケットに手を突っ込みながら、まるでステップを踏むような軽い調子で腰を捻り、
次の瞬間
見えない速度で椅子を振り回している男子生徒の鳩尾に膝を埋めた。
軽やかに見えてかなりのスピードと威力だと思う。
「ぐっ!」
男子が椅子から手を離すとそれは落下し、龍崎くんは脚のつま先を利用して椅子を見事キャッチ。
一方の男子生徒はおなかを押さえて蹲ってる。
ゲホッゴホッ
息をするにも苦しそうに背中を丸めて、小刻みに震えていた。
龍崎くんは片足で椅子を持ち上げたまま、あたしたちの方を見て
「よーぉ、爽やかアオヤマ。まぁた会ったな。
川上を離しな」
椅子を引っ掛けた脚を軽く振って、椅子があたしたちの足元で
ガンっ!と結構な威力の音で飛んできた。
青山くんはあたしからゆっくりと手を離すと、青ざめた顔のまま後ろに下がった。
「……気付いて…たのか?」
「あったりめぇだろ?俺様を誰だと思ってんだよ」
龍崎くんが首を傾けると、骨がなる音が聞こえた。
その様子にまたも青山くんが息を呑んで一歩下がる。
その隙を見てあたしが龍崎くんの元に走り寄ると、
「大丈夫だったか?」と優しい声音で聞いてくれた。
思いのほか柔らかい声にあたしは急に安心してコクコク無言で頷いた。
「……龍崎くん……気付いてたんだね…ありがと」
「あたり前田のクラッカー。白虎会虎間組の倅だぜ?」
“あたり前田のクラッカー(※)”って…龍崎くん、古いよそのネタ。
※昭和時代に藤田まことさんが出演されていたクラッカーのコマーシャルで有名になった言葉ですネ♪
龍崎くんはニッと口元を吊り上げて冷たく笑った。
ふざけてはいるけど、
そう……だった。
この人ヤクザだったんだ。
あたしの平手打ちは簡単に食らったってのに、闇討ちには一瞬の隙も与えず応戦するなんて…
(ネタも古いし)
大物……じゃなくて、やっぱ分かんない人だなぁ。



