彩芽さん―――……?
また、そこで何でその名前が出てくるのか謎だった。あたしが目をまばたくと
「かなりクサイ感じの人ではありますが」
キョウスケも目を細めた。
「まぁなぁ。可能性としたら彩芽さんが一番濃いが、
あとで調べたところな、あの日あの場所の風向きは北北東、風速5.3mやった。あの場所は病院自体が結構高い建物や。
風向きが変わっても、建物が壁代わりになる」
何が言いたのか分からず、あたしは「はぁ?」と目を細めた。
だけどキョウスケは分かったのか、はっとしたように目を開く。
「オピウムの香り……」
キョウスケが合点したように呟くと、
「そや。狙撃があった方向と反対方向からあの香りが―――
オピウムが香ってきた。
スナイパーがおったビルの方向から香ってくるのは物理的にありえへんねん」
戒が気にしていた香り……
やっぱり彩芽さんはあのとき、あの場所に―――居たの…?
居たとしてもスネークじゃないけど。
「ってか相手が誰かイチに吐かせりゃ手っ取り早いじゃねぇか」
あたしが提案すると、戒もキョウスケも黙り込んだ。
奇妙な沈黙が下りてきて、あたしはまたも唇を引き結んだ。
「言うたやろ?スネークの正体知ってるヤツはいないって。
それが何を意味するか分かるか?」
戒に聞かれて、あたしは目をまばたいた。
それが何を意味するか―――……
「目撃者は何らかの形で消されるからや」
戒は温度が感じられない淡々とした口調で言って、あたしは目を開いた。
「さすがに一結もバカじゃありませんからね。その辺のリスクを考えて接触したに違いありません。
彼女が逃げ道を作っていた可能性は大いにありますが、それでも殺しの依頼が実行されるまでは下手な動きはできないはず」
反対側でキョウスケはフライパンにホットケーキのタネを流しいれている。
その横顔は、戒の口調と同じやっぱり表情が浮かんではいなかった。
「つまり、スネークの正体を今迂闊に漏らしたら、今度はイチの命が危ないってこと?」
顎を引いて戒とキョウスケを見上げると、
「よくできました~」
と戒はにこにこ。



